さてここからは別の話

三浦しをんといえばわたくしどもと魂を同じゅうする人ですが
原案があれということもあり作者がこの人ということもあり、「先入観を持たずに!」とか言ってもしょうがないかもしれませんが、しかし、今回は作者すごい自制っていうか方向を変えたっていうか今までの「エロのないBL」「男二人という設定を書きたいだけ*1」みたいな空気とは明らかに違ってませんかこれ。き、気のせい?どうしてもそっちに寄りそうになるのを間際でガッと踏んばってる感じ。…気のせい?
で、「同族作家だからどうしても『ハイハイ』と思ってしまう」という話を前に書きましたが(id:syana22:20060714:p2)今回読みながらそれを自覚する瞬間があったので記しておきます。

 清瀬の目が再び、走のうえではっきりと焦点を結んだ。走の肩に軽く手を触れ、かたわらをすり抜ける。
「おやすみ、走」
 部屋の扉が閉まる寸前に見えた清瀬の背中は、もう弱さも揺らぎも微塵もない、いつもどおりのものだった。
「おやすみなさい」
 つぶやいて、走も自分の部屋に戻った。
(「風が強く吹いている」p214より)

ここ最初は読み流しかけてからお、と思って戻ったんですけど、これ、たとえばこの作者以外の、腐女子宣言をしていない作家(そして男であればなお良い)だったら読み流しもせず「イヤッホーーー!」の瞬間です。「やったね!」です。無言でニヤニヤします。即物的ですみません。ようするに先入観でニヤニヤモードが発動しないようになってるんですよね…「二次創作の二次創作は作れない」的な。
で、今回もそんな調子で読んでいたんですが、しかし、なんかわりと素直に受け取ってちょっとモエてる自分に気付いたんですよ。う、嘘、わたし、モエてる…?!(付箋を貼りながら)今までは「こーゆー関係こーゆーシチュが書きたいんですー!」っていうのがダダモレだったけど、今回は自制してるぶん、いい具合に滲んでる気がします。ようするにこれならわたし二次創作できます!(←最低すぎる表現で本当にすみません)
自粛してるんだけど自粛してない、してないんだけどしてる、してるからこそしてない
BL小説は腐女子(※便宜上)が腐女子のために「はなからホ○」を「どうだ!これで萌えろ!」と繰り出してくるもので読者はそこに乗っかって「総ホ○学園モノってやっぱいいよねー!(例)」と踊って楽しむものですが、「はなからホ○」じゃないですよと銘打った上で、その中で明らかに作者自身がモエちゃってるものを出されても、そこに素直に乗ることはできない。男作家の作品が腐女子にウケるのは「作者自身がモエちゃってる」可能性が低いからです。
今までの三浦作品は一般小説としながらあからさまに「BL小説」にさじ加減が傾きすぎていたところを今回は「青春小説」という看板の元自粛しているので、モエが来たのかもしれない。書き込みが薄いので妄想の余地がある(あああ)のも重要ですね。もう本当に即物的すぎて自分が嫌になりますわ。
まあでもどの子もみんな好きになることができたので、というか「竹青荘の面々」が好きなのでゲスいことは二の次ですよ。といい子ちゃんぶります。でもホントです!結局男の子たちがみんなで仲良くしてるの見るのが好きなんですそれだけなんです!(フォローになってない)


設定上最低でも10人は出さないといけないので余計な人を出してる場合じゃなくなっており、原案にいた筋肉に異常な執着を示す変態チームドクターとかは出てきませんでした。残念。いやそんな人出してる場合じゃないから。ていうか浮くから。これ青春小説だから…と思ったけど、そのちょっと異様な執着というのはハイジさんに受け継がれているかもしれませんね。

*1:これに関しては責める気はないです。これは病気なので仕方がないのです